エンジェルズ・ナイト(完結) 【クリスマス限定ラノベ?】

これは 「今」 だけの物語。クリスマスの夜、何かが起こるという噂が駆け巡る。それはよいことなのか?それとも悪いことなのか?噂は噂を呼び、その日を迎える。奇跡か?破滅か?その日、貴方は誰と、何を見ますか?

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(0)はじまりの終わり

「ね、コレあげる」
「ん?なんで?コレ、大切にしてたやつだろ?」
「だって、ほら、もう時間じゃない」
「あ、ああ……そうか。そうだな。すべてはこの夜のために……」

 男は女の肩を抱き寄せ、空を見上げた。
 都市のビルの上、ゆるやかに黄金の月が登ると
 重なりあう二人の影を焼き付けた。

 男の手から、いつの間に折ったのか紙飛行機が夜空に放たれた。
 闇の中、音もなく紙飛行機は滑空する。
 空を見上げることなく進む人々の群れは、紙飛行機には気づかない。
 紙飛行機はすぅーーーっと進み、群衆の頭すれすれまで降りてきた。
 すると、スッと手が伸び、紙飛行機を掴んだ。

 その瞬間……

 ダッーーーーーーーーーーァァァアァァアアアアアンッーーー

 激しい閃光と爆発音が辺りを包み、人々はやっと空を見上げた。
 舞い上がるチリがまるで雪のように降りそそぐ。

 その時、みつけたものは奇跡だったのか、幸運だったのか、それとも絶望だったのか……
 人々はひとりで、もしくは愛しい人と、その夜をいつまでも見上げていた……



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(1)白い噂

 遡ること一ヶ月前、若者を中心に奇妙な噂が広まっていた。

「な、あの噂知ってるか?」
「な~に?噂って」
「ほら、12月の25日」
「へ?クリスマス?」
「あ、ああ、そうだ。そうだった。クリスマスだったな」
「その日、奇跡が起きるらしい」

「ね!聞いた?クリスマスの夜」
「おーおー!聞いた聞いた。世界が終わるんだろ?」
「え?変わるって聞いたよ?」

「信じる者は救われ神の国に入り、信じぬ者は残される……」
「死者が蘇るって?」
「なんかさーお金が降ってくるんだってー」
「てか、なんで今年なワケ?別に世紀末でも何でもないのに」
「どうせどこかの宣伝かなにかだろ?」

 噂は支離滅裂でまとまりがなかったが、退屈ゆえか、破滅願望か、人々の意識を刺激しネットやSNSを使って、またたく間に広がっていった。
 そうして今年のクリスマスには、何かは必ず起こる。そう人々は信じるようになっていった。良いことか、悪いことかは分からないが。


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(2)ミカとハル

「おい、ミカ。クリスマスどうするんだよ?」
「何がよ?」

 それはよくある登校風景のひとコマだった。

「世界が滅びるんだろ?」

 ふたりは朝、駅から高校への道を歩き始めていた。

「は?ハル、アンタもそんな話を信じてるの?踊らにゃ損々派だっけ?」
「い、いや、だってさ、昨日のテレビでもやってたぜ?『その時、あなたはどうする?』ってさ」

 この手の噂や都市伝説というのは、若ければ若いほど影響を受けやすい。そして、若者ほど破滅の噂を信じる傾向が強かった。快活そうなミカにしたって、部屋の整理をしたり、遺書めいた日記を書いていたりするのだ。

「で?アンタはその時、どうしようって思ったの?」

 ハルは歩きゆく道の遥か彼方を、しばらく見つめたあと、ミカをふりかえった。
「……ミカ……俺はオマエと一緒にいたい」

 沈黙が生まれた。ハルは、歩くたびにきしむ靴のかかとの音が、今日はやけにうるさく感じた。そして、ミカの制服のスカートがすれる音さえ聞こえるようだった。

「フン 便乗告白ってワケ?」
 ミカはハルの方を見ることもなくつぶやいた。

「い、いや……そーかもしれないけど……でも……イヤか?俺とじゃ」

 すべての人類が、同じ一秒一秒の積み重ねで明日へと向かている。
 しかし、その時のハルの一秒は、何十秒にも、何分にも感じた。

「ううん……イイわ」

 ミカはゆっくりと目を閉じ、うなづいた。

「え?」
「パーティの予定だったけど、イイわって言ったのよ!」

 ミカは駆け出した。口元には微笑みが浮かんでいた。

「お、おい!待てよー」

 学校に近づくにしたがって集まりだした生徒達の群れに、ふたりは紛れ込んでいった。


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(3)願望

--決めた……私も……とぶ--

 平日の昼だというのに、カーテンを閉めきった薄暗い室内で、パソコンのキーボードを打つ音が響いている。

--死んでしまうのかい?キキ--

 モニター画面上で、犬のアイコンがそう言った。

--そう……なのかなあ~分からないけど……一人じゃないし……ね?ユウト--
--ああ……俺もいくさ--

 黒ネコアイコンのキキが言うと、犬アイコンのユウトが答えた。

--希望をもって絶望の淵へとジャップするというのか……面白い--

 キキの部屋よりもさらに暗く、真夜中の闇のような空間の中で、ニヤリと笑う口元がモニターの光に浮かんでいる。ドクロのアイコン、つまりこのコミュニティ『シェオル』の管理人Dだ。

--ボクも参加します--
--私もいいですか?--
--ひとりじゃ……ない……もの……--

 すると続々と賛同の声が、いや言葉が続いた。

--忘れてはいけないよ。Xday、ボクらは逃げ出すのではない。次のステージへ行くんだ--

 懸命に生きようとする者がいる。もしくは、なんとなく生きていようとする者がいる。それが正常だと多くの人は言う。しかし同時に、なんとなく死んでみようと思う者もいるのだ。
 えてして『生きたがり』は『死にたがり』を蔑み、『死にたがり』は『生きたがり』を妬みながらも死にきれず、居心地の悪い生をなんとなく過ごすしか無かった。『シェオル』は、そんななんとなくの『死にたがり』の受け皿であった。それが今、Xdayの噂に呼応し、積極的な集団行動に出ようとしていた。


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(4)パーティ

「よーし、やったろうぜ!俺らでXdayを乗っ取ろう!」
「ああ、たっくんが言うなら間違いない」
「今年のクリスマスはかつてないモノになりそうだ!」

 人は平等だという。生まれ持った才能は大差ないのだと。しかし、大きくなるにつれ、ほとんどの人間はそれが嘘だと気づく。生まれながら持つ者と、持たざる者がいるのだと。
 ここに、望むべくすべてを持つ男がいた。三上拓哉だ。人は彼のその超人的な噂を聞くと、まず、嫉妬し、抗おうとするという。しかし、彼の前に立った時、彼の持つ才能に触れた時、彼に従うことに喜びを感じるようにさえなるという。
 彼は人が欲するであろうすべてを持っていた。背も高く、勉強もスポーツも万能であった。高校を卒業すると大学にも行かず始めた事業が世界的に受け入れられ、二十代で一生使いきれないであろう富を築いた。
 しかし、ある日突然、その地位も名誉も捨て去り、慈善組織に寄付してしまったのだ。そして、家も職も持たず流浪するようになった。
 それでも彼は以前と変わらず、いや、それ以上に幸せそうに笑いをふりまいた。彼のゆく先々で人々は我先に食べ物や寝る場所を提供したし、人が集まった。
 その拓哉が今年のクリスマス、いつのまにかXdayと呼ばれるようになったクリスマスに、東京中を巻きこんだパーティをやる、というのだ。

「これこそ奇跡だ!」
「このパーティに参加しない奴は一生後悔するだろう!」
「噂の真相はまさにコレだ!コレに違いない!」

 その噂は、他の噂を塗り替える勢いで広まっていった。



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(5)小さき者達の幸せのサイズ


「サンタなんていねーんだよ!」
「翔太お兄ちゃん……」

 翔太は心の優しい青年である。四つ離れた妹のために、大学を中退し働きに出ていた。

「だって、そうだろ?本当にサンタが必要な貧しい家には来ねーんだからな!」

 景気がよくなったと言っても、それを実感している人間は少ない。とくに翔太のように会社を解雇されたばかりの人間にとっては、クリスマス一色に染まる街も人も、悪い冗談にしか見えなかった。

「嘘よ。だって、毎年サンタさん来てるじゃない。お父さんが居なくなってからも毎年……」
「そ、それは……」

 翔太は、妹の奈美が純粋であることを知っている。彼女の言うコトは、嘘だとか本当だとかではなく、どちらのほうが得か、損かでもない。ただただ信じるのだ。おそらく、兄である翔太の言うコトは、いや、翔太自身が自信が無くて、信じたいのに信じきれないものさえも、奈美は全力で信じるのだった。

「私、思うの。サンタクロースはやっぱいるんだって。そう信じてる人のところにだけ来るんだって。だから大人になるともう信じられなくなって、それだからサンタクロースは見えないんだって……」

 翔太の手には、もちろん今年もサンタクロースからのプレゼントが有った。クリスマス・イブの夜、妹の美奈の枕元に置かれることになるプレゼントだ。
 毎年、妹が本当にほしいであろうプレゼントが届かず、今年こそは!と思っていた矢先の解雇で、苛ついていたのだ。

「そ、そうだな。サンタはいる……か……」

 結局のところ、このふたりの兄妹はふたりで支えあって、くだらないように見える毎日の中に、限りなく大きな幸せを感じているのだった。


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(6)正義の見方

「日向先輩、信じてるんすか?」
「何をだ?」
「子どもたちの戯言ですよ。クリスマスの夜、何かが起こるって」

 夕方、暗くなりはじめた街の中をゆく私服刑事の姿があった。

「楠瀬、お前はバカか?」
「いえ、あ、はい。や~、俺ってバカっすか?」
「知るか!バカ!」

 年末年始は犯罪が増える。10代の若者が犯罪に巻き込まれるケースも多い。だから少年課の彼らは例年、パトロールを強化するのだ。

「いいか?噂など信じちゃ警察は務まらん。もし、仮にだ、何かが起こるとしたらそれは人間の手によるものだ。そして、それがもし法に触れるようなことなら、俺達が、いや俺が阻止する。ただ、それだけのことだ」

 二人はドラマでよくあるようなトレンチコートなどは着ておらず、日向は黒い革のジャケットだったし、楠瀬などラフなダウンにジーパン姿だった。

「さ、さすが日向先輩!言うことはカッコイイや!」
「お、おい!なんだ『言うことは』って!『は』じゃなくて『が』だろーが!」
「いやあ、だって先輩、その日、非番でしょ?」
「あ……」

「ふたりとも!フザケてないで次行くわよ!もう!私は用があるんだからね!」

 そこにもうひとり、ゲームセンターから出てきた女刑事がいた。彼女はOLのような格好だ。

「よ、陽子……さん、フザケてなんてないすよ」
「日向くん。気安く名前で呼ぶとセクハラで訴えるわよ。いいえ、即、逮捕するわよ」
「え、えーーーっ!」


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(7)ノイズ

「Xday、その日がチャンスだ。この噂の盛り上がりようじゃ、きっと誰もがそれを神々の審判だと思うさ」

 それが善意で始まるとしても、それが多くの人にとって幸せなことであっても、なにかのムーブメントが起こる時、そこにはいつか必ずノイズが混じるという。

「なーに大規模にやることはない。ちょっとだけ混ぜ込むだけでいいんだ」

 人間の性(さが)なのか、業(カルマ)なのか分からないが、そのノイズは、急激な変化が起きないようにする、人間の防御本能だという者もあった。

「奴らの希望が絶望に、信頼が疑いに変わるだけでいい。この世界にはまだまだ争いが必要なんだ。世界が発展し続けるためには争いこそが神が与えるもっとも有効な試練なんだよ」

 彼らは地下に流れる川のように、人知れず流れ、ちょっとしたトラブルで詰まり、滞留して大きくなってゆく闇そのものなのだ。
 彼らも密かに根を張り、その日を待っていた。何をしようとしているのか?その結果世界がどうなるのか?その参加者さえも知らなかった。


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(8)ヴォイス

§ヴォイス1 ミカとハルと放課後に ーーー

「で?ドコに連れてってくるのかな?」

 放課後、いつもはハズカシイからと、一緒に帰ることのないミカがハルのもとへ駆け寄ってきた。

「え?何?」
「オイ!ばかハルト!あんたが昨日言ったんでしょ!クリスマスの日一緒にいたいって!」
「あ、ああ。そうか、そうだった」

 もちろんハルは忘れているハズは無かった。しかし、思い切っての告白の後の今だから、なんとなく、緊張してしまっていた。それを知ってか、知らずかミカはいつもどおり腕を掴んだりしてきて、その胸が当たるのだ。

「……あんた、やる気あるの?」
「や、ヤル気だなんて……」
「おーい!なに赤くなってんのよ!変な想像するんなら行かないからね!」
「ウソ!ウソ!ウソ!冗談だよ」

 ハルは自分でも顔が火のように熱くなっているのを感じ、腕を払うと一生懸命真面目な顔をしてみせた。

「な、なんかさ、ほら、街に出ようよ。ヒルズのライトアップを見てさ、表参道行ったりしてさ」
「まさか……ノープランじゃないでしょうね?」
「い、いやあ。だってほら、誰だっけ、あのタクヤさんだっけ?街中でパーティやるとか言ってるやつ。それを目撃できたら、いいかなあ、なんて思ってさ」
「……ノープラン……」
「いや、もうひとつ、とっておきのプランがあるからさ。期待しててよ!」
「期待しないで待つわよ」




§ヴォイス2 コミュニティ『シェオル』
 ーーー

--いいかい?羽根を持たない僕らが飛ぶためには位置エネルギーが必要なんだ。
より高く、より遠くへ飛ぶためには、より高い場所こそ有利ってわけさ
その前に、我々には大事な使命がある。より多くの同胞、仲間たちにこのことを知らせるんだ。君たちは一人じゃない……と--



§ヴォイス3 都心のとあるバーにて
 ーーー

「それでタッくん何をするんだ?そろそろ時間がないぜ?」
「うーん、そうだなあ~どうしよう?」
「え?こ、この期に及んで何も考えてないとか?」
「い、いやあ、言ってりゃなんとかなる!ってのが俺のポリシーだからなあ、とりあえず、なんかある。何かが起こる!って言ってみんなを集めりゃなんとかなるって」
「えーーーーー本当に?」
「俺を信じろ!」
「そ、それを言われると……よっし!じゃ、片っ端から声をかけて回りますよ!」
「よし、そーしてくれ。あと、声を集めてくれ、どんな小さなくだらなそうな声でもいい、そーいった積み重ねが世界を動かすんだからな」
「了解っす!」



§ヴォイス4 郊外のアパートメント
 ーーー

「お兄ちゃん、今年はさ、出かけようよ!」
「で、でも……」
「大丈夫!別に高いお店で食事とか言わないからさ!」
「お家でクリスマスも素敵だけど、街にでたら、街のデコレーションすべてが私達のモノになるのよ!素敵じゃない?」
「よ、よし。分かった。そうしよう。母さんの見舞いの後でな」
「うん!」



§ヴォイス5 アフター5の刑事
 ーーー

「まったく、マコトだけ非番じゃ、どーしようもないわね」

 マコトとは日向刑事のファーストネームだ。

「言うなよ陽子……さん?」
「もう!ふざけてないで!しょうがないでしょ!楠瀬君に見つかったら、たちまち署内に広まってどちらかが別の場所に飛ばされちゃうんだから!」
「ん、ああ。そうだったな。俺とお前が付き合ってるだなんて楠瀬のバカは気づきもしないだろうがな……」
「まあ、何もなければパトロールを早く切り上げて、いつものところで、ね?」
「ああ、本当に、何もないとイイがな」





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(9)彗星に願いを

「お、流れ星だ」
「おいおい、何を今更……」

 都市部を離れた山間にある天文台、外にある広場で研究員が空を見上げていた。冬は空気が澄んでいて星は見やすいが、12月も終わりに近づくと一際寒く、吐く息も白かった。

「まあ、こぐま座流星群だと、それほど盛り上がらないよなあ」
「でも、明日はラブジョイ再接近だろ?」
「今年はアイソンがなあ~」
「それは言わない約束だろ?」
「しかし、世紀の天体ショーとニュースでも話題だったからなあ……」
「これでまた人々が空を見上げなくなってしまうと思うと……」

 ラブジョイもアイソンも彗星の名前だ。アイソン彗星は大彗星になると予想されていたのに、太陽への再接近時に消滅したとされていた彗星だった。
 一方、ラブジョイ彗星というのは、名前の通りロマンチックにクリスマスをめがけて飛んでくる彗星……ではなくて、テリー・ラヴジョイという天文マニアによって発見された彗星である。
 彗星にしても、流れ星にしても、本当は星と呼ぶには小さすぎる岩や氷の塊である。だから彗星など接近するまで発見されないものも多い。しかし、それを見る者にとって、まさに星が降るようであり、その神秘に昔から人は心を震わされてきたのだ。
 そして、天文学に携わる者にとってはロマンだけでなく、経済的な効果も計り知れない。だから彗星への願いも誰よりも強かった。


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(10)贈り物


 ◆◆◆◆◆

「とりあえず、明日、放課後に駅前で」
「う、うん。わかったわ。時間は?」
「そうだなあ、五時くらいでいいか?」
「そう……じゃ、急がなくちゃね」
「ん?なにが?」
「ううん。こっちの話しよ。アンタが突然そんなこと言い出すから時間がないんじゃない!」
「へ?」
「いいの!じゃ、切るわよ!明日ね!」
「あ、ああ」

 ◆◆◆◆◆

--こちらはDだ。参加者は聞いてほしい。明日の夜、日没からちょうど二時間後、天空の塔をのぞむビルの屋上に集合だ。各自、いちばん大切なものを持ってくることとしよう。それを破壊することで、現実のしがらみからの決別の儀式とするのだ--

--大切なもの……なにかあるかな?ユウトはどう?--
--大切なものってのは、よくわからないけど思いつくのはひとつだ--
--なあに?--
--親の期待……かなあ、受験生には不要だって言われてしまい込んだギターとか--
--ふうぅん……。私は……なんだろ。特に思い出もないし……思い入れのあるものもないなあ。強いて言うなら、こうしてチャットをするためのPCかな。コレがなければこんな話にもならなかったのだし……。うん、これだわ--

 ◆◆◆◆◆

「それで?どんな具合だい?」
 拓哉はシャンデリアの街を見下ろすマンションの一室で仲間の一人に尋ねた。街の声を訊いているのだ。
「贈り物の交換、奇跡、天使、白とか、まあクリスマスにはありきたりなものが大半でした」「で?他にあったろう?こんだけ今年は騒がれてたんだから」
「はあ……あとは、空が落ちてくるとか、高い場所とか、破滅とか、なんとなく意味不明なモノがあるにはありましたねえ」
「プレゼントか……たしかに……」
「まあ、ありきたりですよねえ~」
「いや、いいかもしれないなあ」

 窓の外では、もうクリスマスまであと二日、夜もすっかりふけ、明日のイブを待つばかりの夜は一晩中輝き続けていた。

「よし、メッセージを流そう」
「メッセージですか?どんな?」
「贈り物だ。誰かのために、もちろん、恋人のためにでもいいが、贈り物を持ち寄ろうってメッセージだ。それはもちろん高価なものじゃなくてもしいし、そもそもモノじゃなくてもいい。たとえば言葉や歌なんかでもいいだろう。問題は誰かのためを思って自分が用意したモノってことだ。サッチンと高田君に頼めば、あっという間に広めてくれるだろうさ」
「ああ、たしかに、あのふたりなら、ネットはもとより。報道期間やら、怪しげな組織やらに瞬時に広めちまいますからねえ……」
 
 もし貴方が、今夜、奇跡を目にしたのなら、
 贈り物を大切な誰かに、もしくは許すべき隣人に与えよう。
 それが奇跡の輪となり、世界をつなぐだろう

 そんな、メッセージが一夜にして広まっていった。

「で、俺達は、なんでしたっけ?仮装でしたっけ?何時頃にします?」
「仮装じゃないだろ!が、でっかいケーキのロウソクが二本たった1時間後にスタートだ!」


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(11)クリスマス中止のお知らせ

トゥルルルルル…… トゥルルルルル……

「ふあ?、何だ、いい天気じゃないか。こりゃあ、何か悪いことが起こる天気じゃないなあ」

 日向マコトは電話の音に目を覚ますとカーテン越しに外を見た。雲ひとつない青空だった。

「なに?爆破予告?」
「そ~なのよ?。だから今日は、遅くなっちゃうかも」

 電話の主は陽子だった。後ろの慌しい気配から警察署からだと分かる。

「たっく誰だよ!で?場所は?時間は?」
「それがさ……謎かけみたいなのよねえ……」

ーークリスマス中止のお知らせ
  天空の樹と古き塔が交わるところ
  また、太陽の輝きを結ぶ目が閉じる頃
  汝、再び知るであろう
  我らはただ、独りの存在であるとーー

「なんだそりゃ?」
「でしょ?ま、イタズラくさいけどねえ」
「何か手伝うか?」
「手伝うったって、少年課の私達なんて、いいトコ交通整理くらいでしょうから要らないわよ」
「そうだな。でも、ま、気をつけろよ」

 情報は公開されていないとはいえ、避難や交通規制のため一部関係者に伝えゆくため、その予告はたちまち、世間の知るところとなった。
 すると、ネットの住人により、その場所の予想が分析されていった。


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(12)クロスワード


 爆破宣言のキーワードに関する見解は、ほとんどひとつのことを指していた

「天空の樹は間違いなくスカイツリーだな」
「古い塔は東京タワーだろ?」
「ふたつが交わるところってドコだ?」
「東京駅のちょい上らしいぜ」
「太陽の輝きって……アレじゃね?ほらスカイツリーが出来た頃騒がれた」
「あ、ああ~スカイツリーと、東京タワー、サンシャイン60……の正三角形か」
「じゃあ、目は……皇居か!」
「でも、閉じるってなんだ?」

 それは、天空の樹=スカイツリーであり、古き塔=東京タワー、太陽の輝き=サンシャイン60だ。これらを結ぶと、正確な正三角形になるという噂が、スカイツリーが完成するころしきりに話題にのぼっていたのだ。

 そして、最後の一文の解釈はその立場によって正反対だった。すなわち、「人間というのはそれぞれ、ただ独りの気高き存在である」というものと「この宇宙でそれぞれが、けして交わることのないひとりぼっちの存在である」というものだった。

 いずれにせよ、だんだんと、『今日はやはり、何かが起こる』そんな気配に包まれていった。



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(18)プレゼント

「ユウト……ユウトよね?」

 屋外の階段にギターを抱えて座る少年がいた。

「君がキキかい?」

 声に振り返ると、そこには同い年くらいの少女がいた。ふたりはともに頷くと、それ以上言葉を発することなく、しばらく並んで座った。

「見晴らしは悪いけれど……綺麗な夜だな」
「ね、それ、弾いてよ」
「悪いな。俺、弾けないんだ。持ってるだけ」
「プッ あははははは」
「わ、笑うこたーないだろ!」
「だ、だって~~~」

「お二人さん、いい気なもんですね~」

 声がして振り返ると、そこには全身真っ黒なサンタクロースの姿があった。

「も、もしかして……あんたDか?」
「さあてね……だがしかし……、ここにふたつ薬があります。私からのプレゼントだ。どちらか選ばせてやるからそれを飲みたまえ」
「な、なんでそんなことをしなくちゃならねーんだよ!」
「フッ 契約ですよ。契約。まあ、飲まないというのならいいですよ。私は貴方達の本名も住所も知っているのですからね。なーに、ふたりともとは言ってないのですよ。片方はなん効果もない栄養剤だ。片方がゆき、片方は残れる。悪い取引じゃないと思いますがね」

「わ、分かったわ。わ、私飲む」
 キキはブラックサンタの手から薬を両方もぎ取ると、蓋をあけた。
「キ、キキ何をするんだ!」
「どちらか一方って約束よ?どうせ両方共毒なんでしょうけど、約束だからね!」
 キキがそれを飲もうとすると。

 パーーーーンッ

 乾いた銃声が響いた。

「あーあ……やっちゃった。また始末書だな。日向さん」
「うるせー緊急だろ」
「サンタ……クロース……?」

 そこには日向と拓哉の姿があった。

「ち 邪魔が入ったか、またな!」

 ブラックサンタが逃げようとすると、集まっていた他のクルーザーが道を塞いだ。

「逃げるな!ブラックサンタ!いいや楠瀬!」

 ブラックサンタはガクンッとうなだれた。

「なんでです?なんでわかったんですか?俺は、あんたらの前ではバカを演じてた。だからバレるはずなんて無いのに!」
「演じてただと?お前はやっぱバカなんだよ!大馬鹿もんだ!『シェオル』はお前が潜入調査していたサークルだろ。ミイラ取りがミイラになったのか、そもそもお前が立ち上げたのか知らんがな!だが、なぜだ?なぜそんなことを」
「俺はね……つくづくイヤになったんですよ。バカな子ども達のおもりがね!」
「そんな理由で……首都高まで爆破したのか!」
「首都高?知りませんね~そんなことは」
「あ~お取り込み中のところ……」
「なんだ拓哉!お前は黙ってろ!」
「いや、俺の仲間からさっき連絡が入って、首都高のは普通に事故だったらしいですよ」
「な、なにを!ええい!とにかく、逮捕だ!逮捕!おい!拓哉!お前はそこを動くな!あとで聞くことがあるからな!」

 日向は楠瀬に手錠をかけると最寄りの交番まで歩いて行った。赤いサンタが黒いサンタを逮捕した画像も、またたくまにネットに駆け巡った。

「ええと……僕らはどうすれば……」
 ユウトが拓哉に尋ねた。
「ん?好きにすればいいじゃねーの?あ、てかさ、ちょいとそのパソコンを貸してくれるか?あと始末はしておかなくちゃだからな日向さんも相変わらず抜けてるからなあ」
 キキから、パソコンを借りると、拓哉は『シェオル』の掲示板に打ち込んだ。

--今夜、空をみて考えよう。今のこと、明日のこと、自分のことを、再び--

「これでよしっと。じゃな、おっと、お前らにもこれをやるよ。あともう少ししたら、空を見上げるといい」

 ダッガーーーーーーーン!………

 その時、大きな爆発音がした。


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あとがき的なもの

 今回、この話、というかクリスマス限定ラノベという企画を思いついたのは12/18のこと。最初は特別にストーリーだとかを思いついたのではなく、クリスマス限定ってだけで書き始めました。思えば期間が一週間もない中、無謀だったかもしれません。

 おそらく、ライブドアブログの「ライトなラノベコンテスト」という企画がなければ書かれることのなかったお話だと思います。「ライトなラノベコンテスト」という、そもそもライトなノベルよりさらにライトなというコンセプト、三万字未満という想定。それらが気軽に投稿する後押しとなりました。

 確かに、振り返れば、もう少し時間があれば、この手の季節ものなどの企画ももっと盛り上げることが出来たかと思いますが、こんな機会を与えてくれたライブドア様に感謝するとともに、推敲もほとんどしなかったような稚拙な文書を読んでくれた皆様に感謝いたします。


 Happy Christmas! and Happy New Year!


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作者からひとこと
このお話はブログで展開する「ライトなラノベ」という性質上一本一本が短い章に分かれています。
もし、続けて読みたい、という方は下記より御覧ください。

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ライトなラノベコンテスト

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